『スタンドアップ・カードマジック』Roberto Giobbi(訳:星野泰佑)
カード・カレッジシリーズの実質的続編ともいえる本書は、大小さまざまな観客グループに対して、立った状態でカード・マジックを行う方法についてまとめたものである。
学生サークルなら幼稚園や小学校に赴いたり、社会人なら結婚式や飲み会の余興を頼まれたりと、しっかりとしたステージとまではいかず、しかしそれなりの広さの会場でそこそこの人数相手にマジックを披露する、という状況は意外と多くあるように思われる。もちろん、そういった場面で映えるトリックは沢山存在してはいるが、それ専用の道具を買わなければならないし、そのための練習も必要になる。演目の選択肢の一つとして日頃から手に馴染んでいるポーカーサイズのカードを加えられるというなら、悪くない話だろう。
本書で紹介されるのは単にスタンドアップ・マジック向きのトリックだけではない。マジシャンの動き方やカードの示し方、観客をステージに上げるときの注意点など、総合的なtipsも詳しく説明されている。また、この距離だからこそ有効な、やや大胆なスライトなども載っており、クロースアップでの技法がある程度できる人であれば大半の習得は容易だと思われる。
そして付録がまた良いもので、カード・カレッジシリーズやライトシリーズ三部作などに収録されているトリックのうち、スタンドアップ・マジックとして演じられるものが紹介されている(これができるのがジョビーの強みと言えよう)。本書に載っているトリックは13とそれほど多くはないが(準備などの点を考えると、“使える”トリックはさらに絞られてしまうかもしれない)、その解説と、この付録で挙げられているトリックを組み合わせれば、本書を最大限に活用できるはずだ。
続きを読む『The Art of Switching Decks』Roberto Giobbi(訳:富山達也)
ロベルト・ジョビーによる、様々なデック・スイッチ手法をまとめた本。日本語訳にあたり、査読を手伝わせていただいた。
デック・スイッチというと、個人的には“かなり大胆な手法で、習得にも実行にも敷居が高そう”というイメージを持っていたが、本書はそうしたハードルを大幅に下げてくれる。デックのしまい方や保持の仕方、基本的な指の動きといった部分の解説に始まり、立った状態・座った状態などの状況別の分類、またトリック中(あるいはトリックとトリックの間)に半ば堂々とスイッチする方法やその時に演じるトリックの紹介までが詳細に記載されている。
個人的に注目したいのはサイレント・スクリプトだ。簡単に言えば“実際に口には出さないけれど、そう言っているつもりで動くための台本”というもので、ポケットを探るときに「あれ?ペンはどこに入れたっけ?」と頭の中で言いながら探る、といったアレである。本書ではこうしたサイレント・スクリプトの例も用意されているため、動作のイメージが湧きやすいのも良い。
続きを読む『Wabi-Sabi』Harapan Ong(訳:星野泰佑)
2017年に出たハラパン・オンのレクチャー・ノート。“わびさび”ということで、「自分のトリックの出来には満足しているものの、永遠に完璧なものとはならない。とはいえ、こうした不完全なものにも美を見出すことはできる」といった前書きが添えられている。
7つのカード・トリックと、マジシャン仲間でできるゲームの提案が1つ。ほぼパケット・トリックで、小品集といえる一冊。
続きを読む『The Four Treasures』Harapan Ong(訳:星野泰佑)
『Principia』のハラパン・オンによる、ギャフ・カードを取り入れたカード・マジック集。コンセプトは、“広告カードのような使われていないカードの代わりにギャフ・カードを入れておいて、キラー・エフェクトをお見舞いしようぜ”というもの。4枚のギャフ・カードが付属されており、それぞれを1枚ずつ使うトリックが4つ掲載されている。
『Principia』にもThrowaway Tricksというコンセプトがあったが、あちらはギャフ・カードをメインにパケットを構成するのに対して、こちらはデックやノーマル・カードと組み合わせてトリックを作っている。
100ページある本だが、写真が大きく、1ページあたりの密度は小さい。タイトルの由来は中国において4種の書道用具を指す“文房四宝”であり、デザインも中国っぽいものになっている。
続きを読む『Principia』Harapan Ong(訳:星野泰佑)
シンガポール在住の物理学教師にして、SNSで絶大な人気を誇るマジシャン、ハラパン・オンの大作。カード・マジックが50以上、“説明できないトリック”に関するエッセイなどが数本掲載されている。タイトルはもちろんニュートンの著書に由来しており、各章のタイトルは光学や流体力学、トリックの解説部分は概要、序論、手法……といったように論文風に構成されていて、全体的に学術書をイメージしたものとなっている。
本書の特徴の1つは、やはりその構成で、決まったフォーマットに則って書かれているため非常に読みやすいという点だ。例えば冒頭の概要を読めば、現象についてのみならず、どのような手法を使うのか、今後の課題はなにか、といったことが把握できる。これは読み返す際や、気になるトリックを探す際に大変ありがたい。あくまで本書が論文風というコンセプトであったからこそ、このような形式になっているわけだが、自作のトリックを整理したり、レパートリーを管理したりするときにも応用が利きそうだ。
また、“結論”の項で改善の余地について言及している点も珍しい。「ここがイマイチ」と書かれていると、「じゃあ、どうしようか」とついつい改善案を考えてしまいたくなる。自分のトリックについて驕ることも卑屈になることもなく冷静に分析する姿勢に好感が持てた。
続きを読む