『The Art of Switching Decks』Roberto Giobbi(訳:富山達也)

ロベルト・ジョビーによる、様々なデック・スイッチ手法をまとめた本。日本語訳にあたり、査読を手伝わせていただいた。

デック・スイッチというと、個人的には“かなり大胆な手法で、習得にも実行にも敷居が高そう”というイメージを持っていたが、本書はそうしたハードルを大幅に下げてくれる。デックのしまい方や保持の仕方、基本的な指の動きといった部分の解説に始まり、立った状態・座った状態などの状況別の分類、またトリック中(あるいはトリックとトリックの間)に半ば堂々とスイッチする方法やその時に演じるトリックの紹介までが詳細に記載されている。

個人的に注目したいのはサイレント・スクリプトだ。簡単に言えば“実際に口には出さないけれど、そう言っているつもりで動くための台本”というもので、ポケットを探るときに「あれ?ペンはどこに入れたっけ?」と頭の中で言いながら探る、といったアレである。本書ではこうしたサイレント・スクリプトの例も用意されているため、動作のイメージが湧きやすいのも良い。

印象に残ったものを挙げる。

  • The Mani Pulite Deck Switch(マーニ・プリーテ・デック・スイッチ)におけるカット戦略と、そのカットを元に戻す策略。またヒリヤードによる、使用する小道具の理由付け。
  • The Trojan Deck Switch(トロイのデック・スイッチ)。トリック中にスイッチを行なう手法のため、パーツとして組み込むのは難しいが、実行のハードルは低いと思われる。デック・スイッチ入門として。

いまデック・スイッチを学びたいと考えている人でなくとも、割と手の届く手法であることを知っておくことは演技の選択肢を大幅に増やすだろうし、またダーティ・ムーブを全体の動きの中にどのように埋め込むかという観点から見れば、デック・スイッチに限らず参考になるところはあるだろう。

逆に言えば、動きが大きめになり、芝居がかってしまう手法が多いとも捉えられる。ハードルを下げてくれるとは書いたものの、カウント技法などとは異なり、身体全体を意識して動かす練習は必要である(本書に限ったことではないが)。

 

『The Art of Switching Decks』(Roberto Giobbi, Hermetic Press, 2013)(日本語版:富山達也[訳]、小石川文庫、2021)